平成6年6月7日毎日新聞
「善意に法的責任無し」 かえって容体悪化しても
事故の第三者が応急手当をしたことで被害者の容体が悪化しても、第三者は法的責任を問われない。総務庁の「交通事故現場における市民による応急手当促進方策委員会」(委員長・川井健 創価大学教授)は6日、現行法の免責制度を明確にし、この周知徹底を求める報告書をまとめた。また、応急手当をした第三者が血液感染などの二次災害に巻き込まれた場合について、補償範囲の拡大や十分な保証金の支払いなど制度改善を求めた。
事故現場の応急手当て 促進委が報告書
1992年調査によると、救急隊が通報を受けてから現場到着まで平均5.5分もかかり、この間の応急手当が重要とされている。しかし、同年の「交通安全に関する世論調査」では、一般市民による応急手当が積極的に行われていない理由として、「方法が分からない」(69.2%)に続いて「かえって症状が悪化すると責任を問われかねない」(36%)が二番目になり、法的責任の問題が、応急手当て普及の大きな障害となっていることが分かった。
 このため、同庁は法律、医療関係者らつくる同委員会を昨年7月に発足させ、これまで明確でなかった民間人による応急手当についての法律関係を検討してきた。
 報告書では、法的義務でなく道義的問題の応急手当について、民法の「緊急事務管理」に当たり、「法律的には悪意または重過失がない限り、善意で実施した応急手当の結果に民事的責任を問われることはまずない」とした。また、刑事上も、救命手当ては「社会的相当行為」として違法性を問われず、「注意義務が尽くされていれば過失犯は成立せず、その注意義務の程度は医師などに比べて低い」とした。
 報告書は、こうした現行法の免責制度を周知徹底することの重要性を強調している。同庁は今後、各地の応急救護講習などで、報告書をもとに、法的責任への不安を感じることなく応急手当ができることを説明し、応急手当の普及に力を入れることにしている。


水死事故の裁判例

プール

■昭和48年神戸地裁尼崎支部判決
幼児のプール水死事故につき学校にプール設置の瑕疵があるとして賠償責任を認めたが、幼児の両親に幼児監督義務のけ怠が大であるとして七割五分の過失相殺を認めた事例
■昭和48年京都地裁判決
中学校のプールにおける生徒の水死事故につき、プールの設置・管理に瑕疵があるとされた事例

■昭和59年福岡地裁判決
市営プールで開催された「母と幼児の水泳教室」に参加した母親が参加者以外の幼児(三歳八か月)を同伴し、自ら水泳指導をうけている間に同幼児が溺死した事故につき、プールの人的施設及び管理体制の両面に瑕疵ありとして市の賠償義務が認められたが、原告側にも過失ありとして六割の過失相殺がなされた事例
■昭和52年広島地裁判決
小学二年の児童のプール水死事故につき市にプールの設置管理に瑕疵があるとして賠償責任を認めたが、右児童の両親にも監督義務のけ怠があつたとして六割の過失相殺を認めた事例

■富山県
富山新聞2004/9/1
小矢部市営プールでの男児水死事故 母親が小矢部市などに損害賠償8千万円求め提訴。
二〇〇一(平成十三)年八月に小矢部市営大谷プールで長男=当時(9つ)、同市石動小四年=が水死したのは、市などが注意義務を怠ったためなどとして、母親(40)が小矢部市と市体育協会、当時監視員だった男女三人を相手に約八千万円の損害賠償を求めた訴訟の第一回口頭弁論が富山地裁高岡支部(細川二朗裁判官)であった。
小矢部市側は「事故発生時、同小児童のみがプールを使っていたわけでなく、教育活動には当たらない」として全面的に争う構えを見せた。
 訴状では〇一年八月二十五日午後、五十メートルプールの底に長男が沈んでいるのが見つかり、病院に運ばれたが死亡した。プールを管理していた小矢部市や市体育協会に対して▽石動小は教育活動でプールを使っており、児童に危険性や遊泳法を十分に指導しなかった▽アルバイト監視員に緊急事態の具体的で適切な対処法を訓練していなかった―などと主張している。

■富山県
平成6年富山地裁判決
スイミングプールの会員が水泳練習中に溺死した事故
プールに監視員を常時配置しなかつた点に安全配慮義務違反があるとして同クラブを経営する会社の損害賠償責任が認められた事例
 本件プールを管理している被告としては、本件契約上の義務として、右施設内において亡Aら会員の生命・身体を保護するための万全の配慮をして施設を利用させるべく、少なくとも、蘇生法を習得しているプール監視員を配置して、会員が本件プールを利用している時は常時本件プールを監視し、事故発生時に迅速に発見・救助できる体制を整えているべき義務を負つていたものというべきである。

■新潟県
共同通信2005/12/14
プール事故で2人起訴 教委幹部ら、注意義務怠る。
 新潟県横越町(現新潟市)の町民プールで昨年7月、小学6年男児が排水口に吸い込まれ水死した事故で、新潟地検は14日までに、業務上過失致死罪で当時の横越町教育委員会の田中十二男教育課長(58)と神田勝利社会体育係長(60)を起訴した。
 また、田中被告らとともに業務上過失致死容疑で書類送検された4人のうち田中被告の前任の教育課長(63)を略式起訴、新潟簡裁は罰金50万円の略式命令を出した。当時の町教育長ら3人は起訴猶予とした。
 新潟地検は「全国的に同種事故が発生している時に起きたことなどを考慮し、判断した」としている。

■広島県
朝日新聞2006/2/25朝刊
損賠訴訟:市営プールでおぼれ後遺障害 呉市に1億1600万円賠償命令
 ◇地裁支部「安全配慮怠った」
 呉市営プールでおぼれて体に後遺障害が残ったのは市の管理運営に問題があったとして、県南部に住む男性(25)が呉市に約1億6300万円の支払いを求めた訴訟の判決が24日、広島地裁呉支部であった。渡辺了造裁判長は「市は安全配慮義務を怠った」として、約1億1600万円の支払いを命じた。
 判決によると、男性は中学生だった94年7月、呉市二河町の呉市営プールで友人3人と泳いでいた際におぼれ、プールサイドの監視員が助けた。だが、その直後には事故を発見できずに救出が遅れたため、男性は酸素欠乏に陥り、高次脳機能障害を負った。
 渡辺裁判長は「プール全体を常時把握できるように監視員が配置されておらず、救出が遅れた」と指摘した。

■宮崎・延岡、
共同通信2006/2/21
市が1億3千万支払いへ プール事故で。
 宮崎県延岡市は21日、市立小学校の水泳授業中におぼれ、脳に障害が残った当時小学4年の男子児童と両親に、慰謝料など計約1億3800万円を支払い示談することを決めた。
 授業には児童約120人が参加。市は「児童数が多く、教師の目が行き届かなかった部分があった」と、学校側の管理責任に落ち度があったことを認めた。
 延岡市保健体育課によると、2000年6月30日、プールの水面に浮いている児童を教師が見つけ、病院に運んだ。児童は意識不明の重体が続き、意識が戻った後も脳に障害が残ったという。

河川・海等での事故

■平成5年青森地裁判決
県立高校漕艇部の練習中にボートが転覆し、生徒が水死した事故について顧問教師の過失が認められた事例(過失相殺五割)
 顧問教師らが、安全に対する指導を日常から徹底し、安全配慮義務を履行していたならば、生徒も水泳技術を身に付ける機会が得られ万一の艇転覆の際にも救命具が作動して水面に容易に浮上することができ、冷静さを失うことなく艇につかまつて救助を待つなど適切な対処することが可能であつただろうことは十分に予想できるから、顧問教師らの義務違反と本件事故発生の結果との間には、相当因果関係がある。
■兵庫県
共同通信 2006/2/9
安全管理ミス認め慰謝料 ため池死亡事故で。
 兵庫県三木市で2005年5月、ため池の水路に男児2人が転落して小学1年の男児=当時(6つ)=が死亡した事故で、兵庫県は9日、安全管理のミスを認め慰謝料5000万円を支払うことで遺族と合意した。
 県によると、県三木土地改良事務所が04年9月、ため池の南側に、地下水を逃がす水路を作る工事を開始。入り口にフェンスを設けて周囲を立ち入り禁止にしたが、05年3月末の工事中断時にフェンスを撤去。5月16日、虫捕りをしていた男児と幼稚園児(5つ)が水路に転落しておぼれ、男児が死亡した。
 事故後、井戸敏三知事が遺族に謝罪。工事の中断期間中に、安全管理の責任を負う地元の水利組合にきちんと引き継ぎをしていなかったと説明した上で「事前に何らかの安全対策を講じることも可能だった」と管理ミスを認めた。

■平成元年大阪高裁判決
10歳の男児が用排水路に転落して死亡した事故につき、管理者たる市に損害賠償責任を認めた事例
 本件水路に接する本件道路は広く近隣の住民による利用がなされていたのであり、従つて、これら利用者、特に通学路に使用する学童等が好奇心から本件水路に近附く可能性は極めて高く、他方、本件事故現場は、一旦転落すれば、水深、周囲の擁壁等の状況から、大人においても這い上がることが困難であつて、殊に学童においては死に至る危険性の高いものであつたのであるから、これら道路及び水路の管理者たる被控訴人としては、先ず防護柵を十全にする等して、右利用者等が右の箇所に近附くことを防止する設備をする等し、もつて本件の如き事故の発生を未然に防止すべき義務があつたものというべきである。 然るに、被控訴人は、本件転落場所の北側擁壁に至る部分については全くかかる措置を講ぜず、また本件道路上の人が通行する部分に、その措置として設置されていた鉄柵についても、これが一部欠損し、これについて住民等からその危険性を指摘されていたにも拘らず、漫然これを放置していたものであり、その結果、子供がこれら防護措置のなされていなかつたか、若しくは右欠損した部分から本件水路の開渠部分に立入り、同所から転落して死亡したというのであるから、公の営造物たる本件各道路及び水路の設置又は管理に瑕疵があつたものである。

海水浴(水泳講習会、体育の授業中)

■昭和53年札幌地裁判決
公立中学の学校行事としての臨海水泳中、生徒(一四歳)が溺死した事故につき、引率教師に使用水域を十分調査する義務、生徒の監視掌握義務を欠く過失があるとされた事例

■昭和47年東京地裁判決
臨海学校の遊泳訓練実施中小学校五年の児童が水死した事故につき、引率教職員らの過失を認めなかつた事例
 本件水死事故発生当時の状況においては、約10メートルないし約25メートル泳げる小学校五年の児童を、水面が腰付近となる位の深さの所で遊泳訓練する場合に、児童一人一人の挙動を常に監視しなくても、通常直ちには児童の生命身体に危険が発生するおそれはないも のと認められ、しかも本件においては、長さ約二五メートル、幅五メートル足らずの範囲内で他校の児童や一般の海水浴客をまじえないで遊泳する八六名の児童を、四名の引率教職員らが全体的に監視して異常の発見に努め(児童数に対する教職員数の割合は、全体的監視を著しく困難ならしめるほど少ないとは認め難い)、遊泳時間を約一〇分間に限り、離水後は早期に児童の所在を確認し万一事故が発生しても直ちに児童を救助しうるよう万全の体制をとり、現にこれを行なつたものであるから、これらの点について、引率教職員らとしては、事故発生防止のために必要な注意義務を尽したというべきであり、本件水死事故発生について引率教職員らに原告ら主張の過失はなかつたと認めるのが相当である。

海水浴客(開設者の責任、監視員の過失)

■昭和61年大阪地裁判決
海岸に接して建てられ、海岸を営業に利用したホテルを経営する会社が、ホテルを利用する海水浴客の安全確保のための措置をとるべき注意義務を怠つたとして、海水浴中に溺死した宿泊客に対する不法行為責任を認めた事例

ボランテア活動

■昭和60年札幌地裁判決
ボランティア活動の一環としての海岸の磯遊び中にそれに参加した小学六年生の溺死事故ボランティア活動者に過失があつたとして損害賠償責任を認めたが、右被害児及びその両親にも過失があるとして八割の過失相殺を認めた事例